法人経営にとって死活問題なのが社会保険料です。法人で稼いでも役員報酬を支給するときに社会保険料ががっつり取られるので、これをうまくコントロールしないとかなりの出費になります。そこで、今回は社会保険料の節約に効果的な社宅を活用した節税対策について、その効果などをご紹介します。
この節税対策は個人・法人両方の手取りをアップする効果があるので、是非とも活用したい方法です!
社宅の節税効果(社会保険料と税金がどれだけ下げるか)
賃貸の社宅化の場合
前提として、社宅がなかった場合の役員報酬を月額50万円、自宅家賃は10万円とします。この自宅の名義を法人に切り替えることで自宅家賃の5割~8割程度を法人の経費として計上することが出来ます。名義切替後は、家賃10万円は会社が払いますが、一定の金額は社宅を貸す役員から徴収しなければなりません。
この会社の経費に出来る割合や役員から徴収しなければならない割合は税務上の計算方法が決まっていますので、ここでは例として、5割を経費に出来た場合と8割を経費に出来た場合で節税効果を計算してみます。その計算結果が下記です。
まずは個人の節税や手取りの変化について。
個人節税効果 | ①社宅無し | ②5割経費 | ③8割経費 |
---|---|---|---|
役員報酬 | 50万円 | 45万円 | 42万円 |
社会保険料 | △7.1万円 | △6.4万円 | △5.9万円 |
所得税 | △1.7万円 | △1.4万円 | △1.2万円 |
住民税 | △2.5万円 | △2.2万円 | △2.0万円 |
家賃支払い | △10万円 | △5万円 | △2万円 |
個人正味手取り | 28.7万円 | 30.1万円 | 30.9万円 |
月間節税効果(vs①) | - | + | 1.4万円+ | 2.2万円
年間節税効果(vs①) | - | + | 16.4万円+ | 26.2万円
個人は社宅で5割を経費に出来た場合には年間で約16万円、8割経費に出来た場合には年間で約26万円の手取りがアップしました。社宅の一部を法人から払うことで役員報酬を低く抑えることができるので、その分社会保険料や各種税金が低下し、上記の通り手取りがアップしています。
次に法人の節税や手取りの変化について
法人節税効果 | ①社宅無し | ②5割経費 | ③8割経費 |
---|---|---|---|
役員報酬 | △50万円 | △45万円 | △42万円 |
社会保険料 | △7.1万円 | △6.4万円 | △5.9万円 |
正味家賃負担 | - | △5万円 | △8万円 |
負担合計 | △57.1万円 | △56.4万円 | △56.0万円 |
月間節税効果(vs①) | - | + | 0.7万円+ | 1.1万円
年間節税効果(vs①) | - | +8.5万円 | + | 13.6万円
法人は社宅で5割を経費に出来た場合には年間で約8万円、8割経費に出来た場合には年間で約14万円の負担が減少しました。法人についても、役員報酬を少なくする分、社会保険料の負担が小さくなっているために、負担額が減少(=手取りがアップ)しています。
個人・法人の合計で考えると、社宅で5割を経費に出来た場合には年間で約25万円(個人節税効果16.4万円+法人節税効果8.5万円)、8割経費に出来た場合には年間で約40万円(個人節税効果26.2万円+法人節税効果13.6万円)の手取りがアップした形になります。
持ち家の社宅化の場合
次に持ち家を社宅化する方法です。この方法は自宅の持ち家の一部(1部屋など)を役員から会社に貸すという方法になります。こちらの方法の場合、個人の方で不動産所得が発生し、個人の確定申告に伴う税理士費用が追加でかかるため、賃貸の社宅化程の節税効果はありませんが、それでも数十万円単位での節税効果は出ます。
では、こちらの方法でも節税効果を計算してみましょう。前提として、社宅がなかった場合の役員報酬を月額50万円、自宅の1部屋は7万円で役員から会社に賃貸するとします。キャッシュフローとしては、毎月会社から7万円を役員に払い、このお金は役員個人の不動産収入となります。
まずは個人の節税や手取りの変化について。
個人節税効果 | ①社宅無し | ②社宅あり |
---|---|---|
役員報酬 | 50万円 | 43万円 |
家賃収入 | - | 7万円 |
社会保険料 | △7.1万円 | △6.1万円 |
所得税 | △1.7万円 | △1.6万円 |
住民税 | △2.5万円 | △2.4万円 |
個人正味手取り | 38.7万円 | 39.9万円 |
月間節税効果(vs①) | - | + | 1.2万円
年間節税効果(vs①) | - | + | 14.3万円
※1:不動産所得の計算上、減価償却費や固定資産税などで年間20万円の必要経費が発生するものとして計算しております。
個人は社宅ありの方が年間で約14万円手取りがアップしました。家賃収入がある分、役員報酬を低く抑えることができるので、その分社会保険料が低下し、また家賃収入側でも減価償却費や固定資産税などの支出を一部経費に出来たりするので、税金もやや下がり、上記の通り手取りがアップしています。
次に法人の節税や手取りの変化について。
法人節税効果 | ①社宅無し | ②社宅あり |
---|---|---|
役員報酬 | △50万円 | △43万円 |
社会保険料 | △7.1万円 | △6.1万円 |
家賃支払い | - | △7万円 |
負担合計 | △57.1万円 | △56.1万円 |
月間節税効果(vs①) | - | + | 1.0万円
年間節税効果(vs①) | - | + | 11.9万円
法人は社宅ありの方が年間で約12万円負担が減少しました。法人についても、役員報酬を少なくする分、社会保険料分の負担が小さくなっているために、負担額が減少(=手取りがアップ)しています。
こちらのスキームの場合、個人の確定申告で税理士費用が追加でかかるため、これを11万円とすると、個人・法人のトータルでは、社宅ありの方が年間で約15万円(個人節税効果14.3万円+法人節税効果11.9万円-税理士追加費用11万円)の手取りがアップした形になります。
社宅が節税になる理由と注意点
社宅でここまで節税出来るのは、社会保険料をぐっと下げることが出来るからです。社会保険料は年齢や地域によっても異なりますが、役員報酬額に対して会社負担と従業員負担を合わせて約30%もかかるため、家賃負担という形で別の支給方法をとることにより、役員報酬を低く抑えることが可能となり、社会保険料を下げることが出来るという訳です。
これらの方法の注意点としては、例えば下記があります。
- 経費にする割合(5割~8割程度)は税法に沿った計算が必要。
- 物件や賃貸契約の内容によっては法人名義への切り替えが出来ない場合がある。出来たとしても初期費用がかかる場合がある。
経費にする割合の計算は税法で厳格に決められているため、税法に沿ってしっかりと計算する必要があります。適当に計算しただけでは税務署から否認されるリスクもあるので、ちゃんと計算しましょう。
実務上もっと厄介なのが、法人名義への切り替えのハードルです。そもそも法人名義不可だったり、出来ても初期費用を取られるケースも少なくないため、これらのハードルがクリアできるのかは事前に確認が必要です。
- 賃料の設定は周辺相場などから乖離が無いように設定する。
- 個人の不動産所得の確定申告は必ず行う。
- 住宅ローン控除を適用している場合は、控除額が変わる可能性がある。
賃料の設定が高すぎると法人税を不当に下げているとみなされるリスクもあるので、周辺相場などに合わせた現実的な賃料を設定しましょう。
個人の確定申告は必ずしましょう。確定申告をしていないと、無申告加算税などの重いペナルティを受けることになります。
住宅ローン控除は居住部分にしか適用できないので、原則としては会社に賃貸している部分に対しては住宅ローン控除を使えなくなります。ただし、賃貸している部分が概ね1割以下であれば住宅ローン控除は全額使ってよいという特例もありますので、この辺も考慮して賃貸条件を設定しておく必要があります。
まとめ(まずはシミュレーションを!)
以上、賃貸・持ち家社宅化の節税効果についてでした。
社宅化は特に社会保険料の削減に非常に効果的なので、もし使えるのであれば是非導入されることをオススメします。
実施には、自らの状況を踏まえた細かいシミュレーションなどが必須となります。当事務所でも社宅化のサポートはしておりますので、ご興味がある方は是非お問い合わせください!