事業をされている皆様、経費の自己否認という言葉をご存じでしょうか?経費の自己否認とは、「一旦経費として計上した支出を自ら経費性を否認して、経費から除外する」という経理上の処理のことを言います。
何でそんなことをするのかというと、プライベート性の強い支出は経費にはならないので、そういった支出は経費から除外して確定申告をしないといけないからです。後で税務調査が入り、経費性を否認されれば追徴課税の対象となります。そうならないために先に自らの判断で経費から除外するのです。それが「経費の自己否認」です。
本記事ではこの経費の自己否認のやり方、メリット・デメリットを解説します。
経費の自己否認とは?やり方や仕訳
経費の自己否認の定義は冒頭で書いた通り、一旦経費として計上した支出を自分で除外する処理のことを言います。
やり方としては特に難しいことはなく、ただ事業上の支出や経費の一覧を見て、プライベート性の強い支出があればそれを経費から除くだけです。経費から除いた場合の仕訳は下記の通り。
(法人の場合)役員貸付金 ××/経費 ××
(個人の場合)事業主貸 ××/経費 ××
法人の場合は自己否認した経費を使った人が会社に使った分のお金を返す必要がある点に注意が必要です。例えば、100万円の経費を自己否認したなら、100万円の役員貸付金となるため、実際にその使った100万円を会社に返します。この役員貸付金は会社に返さずに長期間放置していると、会社からの賞与とみなされて、個人法人ともに追徴課税の対象となってしまうため、特に注意が必要です。
個人の場合は事業で得たお金も個人のものである点は変わらないので、法人のように賞与で追徴課税といった話はありません。ただ事業で得たお金をプライベートで使うと当然事業側の資金繰りが回らなくなるので、その点は注意が必要です。
経費の自己否認をするメリット・デメリット
メリット①:税務調査が入っても問題なくなる
一番大きなメリットは、税務調査対策になるという点です。
税務調査が入る前に自ら経費を否認するわけですから、仮に税務調査が入ったとしても調査官が否認する怪しい経費はもうありません。なので、税務調査で経費否認による追徴課税を食らうことはなくなるため、税務調査が怖くなくなります。
節税よりも税務調査対策を重視するという方は、プライベート要素のある支出があれば、自己否認するとよいでしょう。
メリット②:事業本来の利益がわかる
もう一つのメリットが、事業本来の利益が分かりやすくなるという点です。
プライベート性の強い支出は事業本来の経費とは言えないので、それらは除外した方が事業で実際いくら儲かっているのかが分かりやすくなります。せっかく利益が出ているのに、そのお金をプライベート性の強い支出で使って利益が薄くなれば、最終的に決算書を振り返ったときに儲かっていたのかどうかが分かりづらくなりますよね。
事業の利益を分析・管理していきたい方は、プライベート性の強い支出は自己否認しておくことをお勧めします。
デメリット①:経費が減るので、利益が増えて税金は増える
続いてデメリットですが、まず一番大きなデメリットは払う税金が増えるということです。
経費を自己否認する→経費が減る→利益が増える→税金が増える、となるので経費の自己否認は税額の増加につながります。経費の自己否認は税務調査対策や事業の業績管理としては望ましいことですが、節税という観点からは正反対の行動となります。自分で払う税金を増やしているわけですからね、少しでも節税したい事業主からしてみれば非常につらい選択となるでしょう。
税務調査対策にもなる経費の自己否認ですが、経費の自己否認は税金が増えるということを覚悟してやりましょう。
デメリット②:法人なら個人から会社にお金を返さないといけない
最初の『経費の自己否認とは?やり方や仕訳』でも述べた通り、法人の場合は「経費の自己否認=会社にお金を返す」ということになりますので、その点注意が必要です。
少額であれば手元のお金ですぐ返せると思いますが、数十万円、数百万円ともなるとなかなかすぐには返せないかもしれません。でも、それを放置しておくと役員賞与とみなされて、法人は事前確定届出給与の届出がない役員賞与として経費が否認され、個人も所得税の追徴課税、また法人は源泉所得税の納付漏れとしても追徴課税を食らうことになるので、役員貸付金の放置は厳禁です。
法人で経費を自己否認する場合には、会社にお金を返さないといけないという点に留意しておきましょう。
経費の自己否認は積極的にした方が良い
以上、経費の自己否認のメリット・デメリットでした。
おそらく小規模な同族会社であれば多かれ少なかれ、多少はプライベート要素のある経費もあるでしょう。あとはそれをどこまで自己否認するかですが、私のオススメとしては以下のような判断基準です。
- 税務調査で否認される可能性の高い支出→×自己否認する
- 税務調査で否認される可能性がある金額の大きな支出→×自己否認する
- 金額の小さな支出→〇自己否認しない
もし税務調査で否認されると、過少申告加算税や延滞税、悪質と判断されれば重加算税の対象となり、本来払う必要のない税金を払うことになります。そのため、最初から勝ち目のない支出や万が一否認された場合に追徴税額が高くなるような支出は最初から自己否認しておくことをお勧めします。
まとめ
以上、経費の自己否認とは?経費を自己否認するメリット・デメリット、についてでした。
経費の自己否認は自分で身を切る行動になるのでなかなかつらい選択ではありますが、後でもっとひどいことにならないように否認すべきものはちゃんと否認されることをお勧めします。特に経費になるか微妙な支出や金額の大きな支出は注意が必要です。