法人の節税対策をする上でよく出てくるのが配偶者や親などの親族を非常勤役員にして、多少の役員報酬を支給することで、所得分散を図り節税するという手法です。
もちろんこのやり方も簡便でかつ節税効果もあるので良いのですが、場合によっては親族を役員ではなく、従業員にするというやり方もあります。本記事では、この節税手法について、その効果や実施のポイント、注意点などを解説します。
家族を役員ではなく従業員にするメリット
このやり方のメリットは、ズバリ「給与・賞与の自由度が上がり、利益のコントロール(節税対策)がやり易くなる」という点です。
通常、常勤役員やみなし役員になると、定期同額給与(毎月の給与)か事前確定届出給与(ボーナス)により給与を支給していくことになります。ただ、いずれの給与も決算開始後早めに決めて、その後決算までは基本的に変更はできないという縛りがあるため、決算直前で利益が出ているから賞与を多めに払うといった調整は出来ません。
この点、家族が従業員であれば決算賞与として利益に応じて賞与を支給しても、その金額が高すぎなければ損金として経費に出来ます。また、毎月の給与なども、業績に応じて増減させることも可能です。あくまで従業員として働いてもらっているので、就業規則や給与規定に沿って比較的自由な調整が出来るのです。
そのため、このやり方は家族で所得分散を図りたい方で、かつ利益に応じて給与を調整したい方にオススメなやり方になります。
ただし、家族を従業員にする場合には、みなし役員や特殊関係使用人の規程に注意が必要なので、次の注意点をご確認ください。
家族従業員に給与を支給するときの注意点
経営に参加させるとみなし役員となり給与が否認される
まず、家族従業員がみなし役員と認定されないように注意が必要です。みなし役員に認定されると、毎月の給与や賞与がそれぞれ定期同額給与、事前確定届出給与の要件を満たしていないとして、給与・賞与がすべて否認されてしまうので、会社の税金としては大ダメージを食らいます。
みなし役員は、株式保有割合などの形式要件と経営に従事しているかという実質要件の2つを満たしている場合にみなし役員と認定されます。(要件の詳細は下記リンク先をご参照ください)
このうち、株式保有割合は社長一人で株を持っているような同族会社の場合は基本該当するので、実質要件のほうで該当しないように注意が必要です。
あくまで従業員としての地位であることを証明するために、以下のような対策をしておきましょう。
- 雇用契約書や労働条件通知書などの書類を作る
- 株主総会や経営会議には参加させない
- 社長から指示命令して働いてもらう
- 経営上の重要な事柄は社長が決める
- 給与や賞与を決める(改定する)ときは通知書などを作る
- 他(世間一般)の従業員と同等に対応する
仮に税務調査が入れば、家族従業員がみなし役員に該当するかどうかは確実に見られます。その時、従業員であるということをしっかりと説明するためにも、日頃から意識して業務を行うとともに、客観的な証拠も残しておくことが重要です。
給与が高すぎると、特殊関係使用人給与として否認される
もう1つの注意点が、家族従業員は「特殊関係使用人」という扱いになるため、「不相当に高額な部分の金額」は損金に算入できないという点です。(法人税法36条、法人税法施行令第七十二条)
みなし役員は役員としての定期同額給与や事前確定届出給与の縛りがあり、それに該当しないとしても、この特殊関係使用人の規程には該当するため、高すぎる給与は損金算入出来ないのです。そのため、いくら利益が余ったからといっても、相場以上の給与や賞与を支給するとその高すぎる部分の金額は否認される可能性大です。
では、「不相当に高額な部分の金額」とは具体的にどのように考えるのかというと、以下のような観点から判断されます。
以下に照らし、使用人の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額(法人税法施行令第七十二条の二)
- 使用人の職務の内容
- その内国法人の収益
- 他の使用人に対する給与の支給の状況
- 同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの使用人に対する給与の支給の状況等
つまり、家族従業員に支給する給与や賞与は、仕事内容や会社の利益に見合っていて、他の従業員や同業他社の給与と比較しても高すぎない金額であれば、全額損金に出来るということです。
後から、上記観点からの指摘が入る可能性がありますので、家族従業員に支給する給与や賞与は、上記観点から問題ないか、事前に確認の上支給するようにしましょう。
まとめ(経営に参加させずに、給与も相場であればOK)
以上、家族従業員に給与や賞与を支給する場合のメリットや注意点についてでした。
家族を従業員にすることで給与や賞与で利益をコントロールすることも可能になるので、導入出来そうな方は検討されてみてはいかがでしょうか。ただし、みなし役員や特殊関係使用人の規程には注意が必要なので、後で否認されないようにしっかりと対策をしておきましょう。