法人成りをすると、法人名義の銀行口座やクレジットカードが出来るまでは、個人事業主時代のものをそのまま使うことがあります。
その時の会計上の仕訳や実務上の注意点を解説します。
銀行預金とクレジットカードを引き継ぐ時の仕訳
銀行預金を引き継ぐ時の仕訳
個人名義の預金を会社で引き継ぐ時の仕訳は以下の通りです。
普通預金 ××/役員借入金 ××
個人名義の預金は会社から見れば、役員から借りた資金になるため、「役員借入金」という勘定科目を使います。会社設立時に登記する資本金にはなりませんのでご注意ください。資本金にする場合には、別途変更登記が必要になります。
なお、個人名義の預金を会社で使うこと自体は特に問題ありません。資本金で足りない部分は適宜利用してOKです。ただし、役員借入金はゆくゆくは会社から社長への返済が必要になるため、会社の売上でお金が溜まってきたら役員へ返済しましょう。
クレジットカードを引き継ぐときの仕訳
個人名義のクレジットカードを会社でも引き続き使う時の仕訳は以下の通りです。
クレジットカードについては、預金との関係よって仕訳方法が少し異なりますのでご注意ください。
<パターン①:カード返済口座の預金もすべて記帳している場合>
カード利用時 経費 ××/役員借入金 ××
カード返済時 役員借入金 ××/普通預金 ××
この場合、会社としては社長の個人カードを借りて、社長から借りている資金を使って返済した、という仕訳になります。返済口座にしている預金もすべて記帳しているため、カード返済時の貸方が「普通預金」になるのが特徴です。
<パターン②:カード返済口座の預金は記帳していない場合>
カード利用時 経費 ××/役員借入金 ××
カード返済時 仕訳なし
①との違いはカード返済時の仕訳です。②では返済口座にしている預金の記帳はしていないため、「仕訳なし」となります。個人カード利用によって蓄積していく役員借入金は定期的に会社から社長に返済しましょう。そうしないと、個人の方ではカード返済によってどんどんお金がなくってしまうので。
なお、会計ソフトによっては、カード利用に伴う貸方が「未払金」として固定されている場合もあります。その時は「未払金」のままでも問題はありません。ただし、厳密には社長のカードを借りているということは理解しておきましょう。
銀行預金とクレジットカードを引き継ぐ時の注意点
個人名義の引継ぎはあくまで一時的な運用方法
法人成りをした後に個人名義の銀行預金やクレジットカードをそのまま使うのは、法人名義の銀行預金やクレジットカードが出来るまでの一時的な運用方法です。
銀行預金、クレジットカードのいずれも、社長から借りている状態であり、そのままだと色々と不都合が出てきます。どのような不都合が出るのかについては、この後ご説明します。
個人名義の銀行預金は役員借入金になる
仕訳でもお示しした通り、個人名義の銀行預金は会社からしてみれば「役員借入金」になります。
役員借入金は借りている役員に対する負債であり、役員借入金が残り続けると以下のような問題点があります。
- 役員借入金は貸している役員からしてみれば「貸付金」であり、いつか回収しないと個人として損をします。
- 「貸付金」ということは、相続時には相続財産を構成し、被相続人の財産の状況によっては相続税がかかります。
- 会社として役員借入金があるということは、会社としての資金繰りが回っていないことの証明でもあります。これは銀行等から見れば、マイナス評価となります。
役員借入金には以上のような問題点がありますので、一時的に法人に貸したとしても、法人に資金が溜まってきたら、ちゃんと役員に返済しましょう。
個人名義のクレジットカードは法人口座から返済出来ない
個人名義のクレジットカードを引き継ぐ際の注意点として、個人名義のクレジットカードは法人口座を返済口座に設定出来ないという点があります。
これにどのような問題があるのかというと、会社で個人カードを使って経費を計上したとしても、そのカード利用による債務の返済資金は個人口座から払うことになり、会社としての資金繰りが非常に見づらくなる、という問題点があります。
個人口座からの返済と同時に毎回法人口座から返済していればいいですが、毎回そんなことをやるのも面倒ですよね。そのため、基本的には法人カードを作って、その法人カードの返済は法人口座に設定し、会社として資金繰りを回せるような仕組みにしましょう。
まとめ(面倒でもちゃんと整理すること)
以上、法人成りで個人名義の銀行預金とクレジットカードを引き継ぐ時の仕訳と注意点についてでした。
法人名義の銀行口座やクレジットカードは、法人設立後じゃないと作れないので、新規設立ではなく事業が継続中の法人成りの場合は、どうしても個人名義の銀行口座やクレジットカードを使わざるを得ません。
ですが、この運用方法を継続していると経理が複雑になったり、会社の資金繰りが見えづらくなるなどの弊害もあるので、出来るだけ早期に法人名義の銀行口座とクレジットカードを作って、会社として資金繰りを回せるような仕組みにしましょう。