個人と法人の取引が個人口座と法人口座で混在している場合の記帳方法(実質所得者課税の原則に準拠)

個人と法人それぞれで事業を行っている方で、たまに個人口座と法人口座が混在してしまっている方がいます。基本的には個人の取引は個人口座で行い、法人の取引は法人口座で行っていれば、記帳も特に困ることはないのですが、それが混在していると記帳もかなり複雑になります。

そこで、本記事では個人と法人の取引と口座が入り混じってしまっている場合の簡便な記帳方法をお伝えします。

なお、本記事で言っている「口座」というのは銀行口座だけでなく、クレジットカードなどの他の金融機関も含みます。

目次

前提:取引名義と口座名義が異なる場合の考え方

実質所得者課税の原則により名義よりも実質を重視する

所得税、法人税、消費税には「実質所得者課税の原則」という考え方があり、取引上の名義が単なる名義人であってその利益を実際に享受している者が別にいるのであれば、その享受している者に課税することになります。

所得税(実質所得者課税の原則)
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

法人税法(実質所得者課税の原則)
第十一条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

消費税法(資産の譲渡等又は特定仕入れを行つた者の実質判定)
第十三条 法律上資産の譲渡等を行つたとみられる者が単なる名義人であつて、その資産の譲渡等に係る対価を享受せず、その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には、当該資産の譲渡等は、当該対価を享受する者が行ったものとして、この法律の規定を適用する。
2 法律上特定仕入れを行つたとみられる者が単なる名義人であつて、その特定仕入れに係る対価の支払をせず、その者以外の者がその特定仕入れに係る対価を支払うべき者である場合には、当該特定仕入れは、当該対価を支払うべき者が行ったものとして、この法律の規定を適用する。

つまり、銀行口座やクレジットカードの名義にこだわることなく、取引の実態が個人か法人かという考え方で記帳するというこです。口座の名義で考えると訳が分からなくなるので、取引の実質がどっちなのかという点を重視しましょう。

個人⇔法人間の取引は場合によっては省略する

仕入から販売まで一貫して、個人か法人かという整理が出来ればまだ分かりやすいですが、ややこしいのが個人と法人間の取引をどう考えるかです。

例えば、個人カードを使って仕入れた商品を法人名義で売った場合はどうでしょうか。この場合、一旦個人で仕入れたので個人から法人に売ったことにしてその売却の仕訳も計上するかどうか。この点、原則としてはそのように個人法人間の仕訳を計上するのが望ましいでしょう。しかし、取引が大量にある場合はすべてそのように記帳していたらきりがありません。

そこで、個人法人間の取引が大量にある場合は、最初からどちらの名義で取引を行う予定だったのかという点を考慮して、最初から最終的な取引名義で記帳していくことをオススメします。

上記は個人法人間で利益を乗せないことを前提にしていますので、間で利益を乗せたいのであれば、個人法人間の仕訳も必要になります。

また消費税のインボイスの観点からも注意点があります。それは、インボイスには「不特定多数に販売する小売業・飲食業・タクシー業等」以外、交付先の氏名又は名称の記載が必要となるため、最終的な取引名義者が消費税の課税事業者で原則課税を適用している場合には、インボイスの要件を満たしいてるか注意が必要になります。対策としては、インボイスに名称が記載される場合には、最終的な取引名義者名で記載してもらうとよいでしょう。

パターン別の記帳方法まとめ

では、前置きが長くなりましたが、具体的な記帳方法について見ていきます。ここからは結構簡単です。

なお、本記事では個人と法人の両方で取引をしていることを前提にしているため、以下のような仕訳をご紹介していますが、いずれか片方だけの取引を複数名義の口座を使って取引しているような場合は、最初から取引名義でそれら口座を利用しているものとして記帳することも可能です。
【例】法人成りで取引は法人のみ。法人の売上100が個人名義の口座に入金された
預金 100/売上 100
→個人名義の口座を法人口座として利用することは会計税務上は特に問題ありません。

法人の売上が個人口座に入金された場合

【例】法人の売上100が個人口座に入金された

【法人の仕訳】役員貸付金 100/売上 100
【個人の仕訳】預金 100/事業主借 100

法人の売上が個人口座に入金されたので、一旦役員(個人事業主)に貸し付けたと考えます。

法人の仕入・経費を個人口座から支払った場合

【例】法人の仕入100を個人口座から支払った

【法人の仕訳】仕入 100/役員借入金 100
【個人の仕訳】事業主貸 100/預金 100

法人の仕入を個人口座から支払ったので、一旦役員(個人事業主)から借りたと考えます。

個人の売上が法人口座に入金された場合

【例】個人の売上100が法人口座に入金された

【法人の仕訳】預金 100/役員借入金 100
【個人の仕訳】事業主貸 100/売上 100

個人の売上が法人口座に入金されたので、一旦個人事業主(役員)に貸し付けたと考えます。

個人の仕入・経費を法人口座から支払った場合

【例】個人の仕入100を法人口座から支払った

【法人の仕訳】役員貸付金 100/預金 100
【個人の仕訳】仕入 100/事業主借 100

個人の仕入を法人口座から支払ったので、一旦個人事業主(役員)から借りたと考えます。

役員貸付金・借入金と事業主貸・借は最終的には精算する

売上や仕入のお金が取引名義とは別の名義の口座に入金されていたり、支払っていたりするので、そのお金は最終的には取引名義の口座に移して精算しましょう。

そうすれば、役員貸付金や借入金、事業主貸や借の残高も無くなります。

【例】法人の売上100が個人口座に入金されたので、その100を個人口座から法人口座に戻した

【法人の仕訳】預金 100/役員貸付金 100
【個人の仕訳】事業主借 100/預金 100

法人の売上が個人口座に入金されたので、一旦役員(個人事業主)に貸し付けたが、そのお金を法人に返済したと考えます。

まとめ(取引と口座の名義は合わせましょう)

以上、個人と法人の取引が個人口座と法人口座で混在している場合の記帳方法についてでした。

取引名義と口座名義がバラバラだとご覧のように複雑になってしまうので、取引名義と口座名義は極力合わせるようにしましょう。個人取引と法人取引の両方をやっている方は特に。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次