法人税や所得税においては、「短期前払費用」という前払費用の費用化に関する特例があります。
簡単に言うと、1年以内に役務提供を受ける前払費用については、支払った期に一括で費用計上ができるという特例になります。
比較的シンプルな規程ではありますが、実務でもよく使う特例であり、注意しておくべきこともあります。
本記事では、この「短期前払費用」の定義や適用条件などについて解説します。
そもそも前払費用とは?
税務上の短期前払費用を理解するためには、会計上の前払費用についても知っておくと、理解がより深まると思いますので、会計上の前払費用についても少し触れておきます。
会計上、前払費用とは「一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価」のことを言います。
もう少し簡単に言うと、翌月とかの将来に受けるサービスに関する料金を先に支払った場合の料金のことを、会計上は前払費用と言います。
前払費用に該当した場合には、会計上は翌月以降の実際に発生したタイミングで費用に計上することになります。
上記のような発生したタイミングで会計処理(費用化)を行うことを「発生主義」といいます。
短期前払費用の特例とは?
特例の内容・条件
税務上の前払費用についても、原則的な取扱いは会計と同様です。
つまり、費用(損金)に計上できるのは、役務の提供を受けた時(発生したタイミング)になります。
しかし、税務上では以下の特例が認められています。
その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度(年分)の損金の額(必要経費)に算入しているときは、その支払時点で損金の額(必要経費)に算入することができる。(法基通2-2-14、所基通37-30の2)
上記特例が認められている趣旨としては、税務上でも会計上の重要性の原則(重要性が低い取引は簡便な処理も認められる)に基づく経理処理を認めるというものです。
特例を適用するための注意点(上記赤字部分)は以下の通りです。
①1年以内の役務提供
→1年超の役務提供部分が含まれている場合は、特例は適用できません。
②支払った場合
→未払いの状態では特例は適用できません。
③継続して
→期によって適用したり適用しなかったりという状態では、特例は適用できません。
上記3点の注意点は、実際の取引に当てはめて考える時にとても大切になってきますので、しっかりと理解しておきましょう。
なお、売上に対応する仕入や、借入金を預金・有価証券などに運用する場合の借入金利子のように、収益と対応させる必要がある費用については、上記短期前払費用の特例は適用できませんのでご注意してください。
特例適用に関する具体例(〇×)
特例の内容を確認したところで、特例を適用できる場合(〇)と適用できない場合(×)の具体例を見てみましょう。
※以下の具体例では、継続した経理を行っていることを前提とします。
【具体例1】
法人(3月決算会社)が決算月の翌月分(4月)の地代家賃を3月末に支払った場合
→【〇】1年以内なので適用できます。
【具体例2】
法人(3月決算会社)が翌期分(4月~翌年3月)の地代家賃を3月末に一括で支払った場合
→【〇】1年以内なので適用できます。
【具体例3】
法人(3月決算会社)が翌期分(4月~翌年3月)の地代家賃を2月末に一括で支払った場合
→【×】支払った2月末から役務提供が完了する翌年3月末までの期間が1年を超えるので特例は適用できません。この場合は原則通り発生主義に基づき、全額が前払費用となります。
【具体例4】
法人(3月決算会社)が翌期分(4月~翌年3月)の損害保険料を3月末に一括で支払った場合
→【〇】1年以内なので適用できます。
【具体例5】
法人(3月決算会社)が翌期分(4月~翌年3月)の損害保険料のうち、4月分のみを3月末に一括で支払った場合
→【△】4月分のみは1年以内なので適用できます。
→【△】しかし、5月~翌年3月分まではまだ支払っていないので特例は適用できません。(費用も前払費用も計上されないので、未払部分の会計処理は3月末時点では何も行われません)
まとめ
前払費用は実際の取引ではよくあることなので、短期前払費用の特例を理解して、節税できる部分はしっかりと節税していきましょう。