所得税「実質所得者課税の原則」について【大事なのは経済的な実質や経営実態】

所得税には、資産又は事業から生ずる収益が誰に帰属するか(誰に課税されるか)について「実質所得者課税の原則」という考え方(所得税法12条)があります。

基本的に自分だけでビジネスを行っているような場合には、当然自分に課税されるので特に気にする必要はありませんが、親族間でビジネスをしていたり、他人・他社から名義を借りてビジネスをしているような場合には、誰に課税されるのかという問題が発生し、このとき上記の考え方を用いて判定することになります。

本記事では、この「実質所得者課税の原則」について解説します。なお、実質所得者課税の原則には、法人税にも同様の条文がありますが、本記事では実務で論点となりやすい所得税法の領域にフォーカスして解説します。

目次

所得税「実質所得者課税の原則」について

基本的な考え方→所得の実質的な帰属者に課税

「実質所得者課税の原則」の基本的な考え方としては、「実質~」という言葉からもわかる通り、そのビジネスの形式的な名義人によらず、そのビジネスで発生する所得が実質的に帰属する人に課税するというものです。

一応条文も確認しておくと、以下の通りです。ポイントとなる箇所を赤字にしました。

(実質所得者課税の原則)
第十二条 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。

要するに、名義人かどうかは関係なく、あくまでその経済的な実態で考えるということですね。

例えば、そのビジネスの性質上、複数の名義人の名前を借りているような場合には、その名義を貸した名義人ではなく、借りた名義を利用してビジネスをして、その利益を得ている人が申告と納税をする必要があるということになります。

実際に判定する際の3つのポイント(資産の名義人・実質的な経営者・生計の主宰者)

基本的な考え方としては、前述の通りですが、実際に判定する際のポイントとして、3つご紹介します。条文上のポイントは赤字にしています。

【ポイント①:資産の名義人】
資産から生ずる収益の帰属者は、その収益の基因となる資産の真実の権利者がだれであるかにより判定するが、それが明らかでない場合には、その資産の名義者を真実の権利者と推定する。(所得税法基本通達12-1)

<解説>
事業ではなく、資産から収益を得ているような場合でも、真実の権利者という実質が優先されるものの、それが明らかではない場合には、その資産の名義者が真実の権利者として推定されることになります。

そのため、資産から発生する収益について、所得税法12条にあるような、法律上の収益が帰属するものが単なる名義人であって、その者がその収益を享受していない場合には、この所基通12-1が適用され、その資産の実質的な権利者、それが不明な場合には、その資産の名義者にその収益が帰属し、その者に課税されることになります。

【ポイント②:実質的な経営者】
事業から生ずる収益の帰属者は、その事業を経営していると認められる者(事業主)がだれであるかにより判定する。(所得税法基本通達12-2)

<解説>
事業の場合には、その事業の実質的な経営者にその事業で発生した収益が帰属するものとされます。この実質的な経営者というのは、その経営実態に基づき総合的に判定されることになります。

そのため、事業から発生する収益について、所得税法12条に記載の状況(単なる名義人など)が発生した場合には、その事業の実質的な経営者に収益が帰属するものとされ、その経営者に課税されることになります。

【ポイント③:生計の主宰者】
同一生計の親族間における事業(農業を除く)における事業主は、その事業の経営方針の決定につき支配的影響力を有すると認められる者が当該事業の事業主に該当するものと推定するが、これが明らかでないときには、原則として、生計を主宰している者が事業主に該当するものと推定する。(所得税法基本通達12-5)

<解説>
所基通12-2で、事業から発生する収益にについては、事業主が誰であるかによって判定するものとされていましたが、この事業を同一生計の親族間で行っている場合には、その事業の経営方針を決めている者が事業主と推定され、それが明らかでない場合には、生計の主宰者(≒生計を維持している者)が事業主と推定されることになります。

そのため、親族間で行う事業から発生する収益について、所得税法12条に記載の状況(単なる名義人など)が発生した場合には、その経営方針を決定している者、それが不明な場合には、その生計を維持している者に収益が帰属するものとされ、その者に課税されることになります。

まとめ

以上、『所得税「実質所得者課税の原則」について』でした。

個人事業主の場合は、法人に比べて、名義人やビジネスの実態が曖昧になりがちなので、この「実質所得者課税の原則」の考え方を使う場面も結構出てきます。誰に課税されるのかという判定を間違うと、課税されるべき人の確定申告が間違えていたということになり、場合によっては、過少申告加算税などのペナルティにも繋がってくるので、とても重要な考え方になります。

ビジネスを行う上で、「あれ?これ誰の所得として確定申告すべきなのかな?」と疑問に感じた場合には、今回ご紹介した所得税法や、所得税法基本通達を参考に、誰が所得を実質的に得ているかなどについて一度考えてみましょう。ただし、この判定は結構難しい部分もあると思うので、判定に悩んだ際は、事前に税務署や税理士に相談されることをオススメします!

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