会計士が行う会計監査では、必ずと言っていいほどアンレコという監査手続を行います。会計監査の対応をしたことがある方であれば、「あーあのめんどくさいやつね」とピンと来るかもしれません。
アンレコとはそもそも何なのか?なぜアンレコをするのか?について解説します。
アンレコとは?
アンレコというのは、監査人が経費や債務の網羅性を確認するために行う監査手続の一つです。
アンレコという言葉は略称で、「Unrecorded liabilities(未計上債務)」を略してアンレコと言われています。
具体的にどういう監査手続かというと、例えば3月決算の会社であれば、3月末までに発生している経費や負債は発生主義に基づき、漏れなく計上しなければいけません。
しかし、会社は利益を追求する組織ですし、一般的には経営者は会社の利益を上げたい・純資産を増やしたいと思うはずなので、もしかしたら本来期末までに計上すべき請求書(経費××/未払金××)を計上しないという選択をするかもしれません。
そこで、決算月の翌月以降に計上している経費、若しくはまだ未処理の請求書などをチェックして、それらが本来は期末までに計上すべき費用や債務ではないか、ということをしらみつぶしにチェックする訳です。実務的には未処理の請求書の束をどさっとお借りして、それらを一気にチェックします。
アンレコをする際には、会社の経理担当者も請求書を予めかき集めないといけないですし、会計士的にも量が多いと数人がかりでチェックすることになります。そのため、アンレコは結構大変な監査手続の一つと言えます。
なぜアンレコをするのか?
なぜアンレコをやるのかというと、費用や債務の計上漏れ(網羅性)を検証するための手続きとしては、このアンレコという手続きが最も適しているからです。
他にも、増減分析や、趨勢分析、比率分析、他の科目との整合性分析などで検証することも出来なくはないですが、あくまで分析に過ぎないので、計上漏れを発見するためにはちょっと物足りません。
アンレコであれば、実際に請求書をチェックするので、計上漏れかどうかが一発で分かります。
計上漏れがあったらどうなるのか?
これだけ監査の実効性が高いアンレコなので、監査の現場でも計上漏れが見つかることは実は結構あります。
計上漏れがあった場合の基本的なスタンスとしては、原則として修正(費用・債務の追加計上)となります。
ただし、会計監査では投資家などの利害関係者の投資意思決定などの判断を誤らせない程度までのレベル感で監査をしているので、小さい金額までは追及しません。そのため、計上漏れがあったとしても、それが許容できる金額であれば、監査意見に影響を及ぼすことはありません。
しかし、金額の程度によっては、監査上の意見に影響はなくても、重要な指摘事項として経営者層にまで報告される可能性もあるため、安易な考えは禁物です。
まとめ
会計士である私でさえ、アンレコという手続きは結構やっかいな手続きだと思っています。税金や連結を締めた後に、経費の漏れを修正すると、それらすべてがやり直しになりますからね。
アンレコはあくまで事後的なチェックです。アンレコで引っかからないようにするためには、決算に入る前に各部署や各拠点に請求書の計上漏れがないように周知徹底したり、スポットで発生するような大きな費用がないかを事前に確認しておくことなどが有効な対策になります。
会計監査中にアンレコで引っかからないためにも、上記のような計上漏れ対策を講じてみてはいかがでしょうか。